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いらっしゃい。今夜は、プレミアリーグの歴史でいちばん有名な「数字」の話をしよう。
93分20秒。
サッカー好きなら、この数字だけでどの試合かわかるはずだ。2012年5月13日、2011-12シーズンの最終節。マンチェスター・シティ対クイーンズ・パーク・レンジャーズ(QPR)。優勝が決まるまでの最後の5分間に、プレミア20年分のドラマが詰め込まれた試合だ。
グラスを用意してくれ。キックオフから順番に、図解つきで振り返っていく。
試合データ
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 日時 | 2012年5月13日(日) |
| 会場 | エティハド・スタジアム(マンチェスター) |
| 大会 | プレミアリーグ 2011-12 第38節(最終節) |
| スコア | マンチェスター・シティ 3-2 QPR |
| 得点 | シティ:サバレタ(39分)、ジェコ(90+2分)、アグエロ(93分20秒)/QPR:シセ(48分)、マッキー(66分) |
| 退場 | ジョーイ・バートン(QPR、55分) |
| 監督 | シティ:ロベルト・マンチーニ/QPR:マーク・ヒューズ |
キックオフ前の状況:勝ち点は同じ、得失点差でシティ
最終節を前に、首位シティと2位マンチェスター・ユナイテッドは勝ち点で並んでいた。違いは得失点差で、シティが8点上回っていた。
- シティ:ホームでQPRに勝てば、ほぼ優勝(ユナイテッドの結果と同じなら得失点差でシティ)
- ユナイテッド:アウェーでサンダーランドに勝ち、シティがつまずくのを待つしかない
- QPR:降格の危機。自分たちの結果と、同じく残留を争うボルトンの結果しだい
シティにとっては、1968年以来、44年ぶりのリーグ優勝がかかっていた。しかも相手は降格圏ぎりぎりのQPR。誰もが「シティの楽勝」を予想していた。
図解:試合の流れ
図解:その瞬間、優勝していたのはどっち?
右端の水色=93分20秒〜試合終了
- 水色=その時点のスコアで終わればシティ優勝、赤=ユナイテッド優勝
- 試合時間の約3分の2、優勝はユナイテッドのものだった
- シティが最後に取り返したのは、試合終了のわずか数十秒前
| 時間 | エティハド(シティ対QPR) | サンダーランド対ユナイテッド | この時点の優勝 |
|---|---|---|---|
| キックオフ | 0-0 | 0-0 | シティ(得失点差) |
| 20分 | 0-0 | ルーニーのゴールで0-1 | ユナイテッド |
| 39分 | サバレタのゴールで1-0 | 0-1 | シティ |
| 48分 | シセが決めて1-1 | 0-1 | ユナイテッド |
| 55分 | バートン退場。QPRは10人に | 0-1 | ユナイテッド |
| 66分 | マッキーのヘディングで1-2 | 0-1 | ユナイテッド |
| 90分 | 1-2のまま。追加タイムは5分 | 0-1のまま、まもなく試合終了 | ユナイテッド |
| 90+2分 | ジェコのヘディングで2-2 | (終了) | ユナイテッド |
| 93分20秒 | アグエロが決めて3-2 | (終了) | シティ |
ドラマ①:まさかの逆転と、バートンの暴走
前半39分、今季まだ1点も取っていなかった右サイドバックのサバレタが先制。エティハドは「これで決まった」という空気になった。
ところが後半3分、DFレスコットのヘディングのミスを拾ったシセが、強烈なシュートを突き刺して同点。さらに55分、QPRの主将ジョーイ・バートンがテベスとの小競り合いで肘を入れて退場になる。しかもバートンは、ピッチを出ていくまでにアグエロのももに膝を入れ、コンパニにも頭突きを見舞おうとした。
10人になったQPRに、もう反撃の力はない――はずだった。66分、途中出場のトラオレが自陣から一気に駆け上がってクロス。これをマッキーがダイビングヘッドで押し込み、10人のQPRが2-1と逆転した。
皮肉なことに、のちに振り返ると、バートンの暴走で試合が長く止まったことが、5分という長い追加タイムにつながったと言われている。
ドラマ②:届いた5分間
ここからのシティは、文字どおり総攻撃だった。ジェコ、バロテッリを投入し、コーナーキックは試合全体で19本。QPRは自陣に引きこもり、クリアを繰り返した。
追加タイムに入るころ、サンダーランドではユナイテッドが1-0で試合を終えた。選手たちはピッチの上で、マンチェスターからの「終了の知らせ」を待っていた。
90+2分、その19本目のコーナーキック。シルバのボールに、ジェコが頭で合わせて2-2。まだ足りない。あと1点。
そして93分20秒。中盤でボールを受けたアグエロが、ペナルティエリアの手前でバロテッリとワンツー。倒れ込みながら戻されたボールを受け、DFの足をかわして、右足でゴールに叩き込んだ。
英スカイ・スポーツの実況マーティン・タイラーが叫んだ「アグエロォォォ!」は、いまもプレミアの歴史を象徴する声として語り継がれている。サンダーランドのユナイテッドの選手たちは、天国から地獄へ突き落とされた。
ドラマ③:負けたQPRも、実は「勝者」だった
この試合には、もうひとつ結末がある。QPRは負けたが、残留争いのライバルだったボルトンがストークと引き分けたため、QPRは1部残留を決めた。だから試合終了後、負けたはずのQPRの選手やファンもほっとした顔をしていた。
ついでに言えば、QPRの監督マーク・ヒューズはシティの元監督。退場したバートンはシティの下部組織出身で、ライト=フィリップスもシティの元選手だった。古巣の優勝を、元シティの面々が最後まで阻もうとしていたわけだ。
この試合が変えたもの
- シティにとって44年ぶりのリーグ優勝。ここから、プレミアを何度も制する時代が始まった
- 最終成績は、シティとユナイテッドがともに勝ち点89。得失点差(シティ+64、ユナイテッド+56)で決着
- アグエロのゴールは、10周年の2022年に建てられた彼の銅像とともに、エティハドで今も記念されている
2026年の今、この試合を見返すと
ひとつだけ、今だからこそ書いておかなければならないことがある。今年9月、シティはプレミアリーグの独立委員会から、2009年から2018年にかけての財務規則違反を認定された。つまり、この2012年の優勝も、その期間に含まれている。
シティは不正を否定し、不服申し立てを行っている。結論が出るのはまだ先で、タイトルがどうなるのかもわからない。ただ、現地ではこの「93分20秒」をどう語り継いでいくのか、複雑な思いで見ている人が多いのも事実だ。レジェンドたちの声は、いずれこの店でも紹介するつもりだ。
93分20秒の興奮を、もう一度。あの日の空色を一枚どうだい。
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私のひとこと
私はこの試合を、何度見返したかわからない。結果を知っていても、90分を過ぎたあたりから、なぜか手のひらに汗をかく。
サッカーで「最後まで何が起きるかわからない」とはよく言うが、それをここまで見せつけた試合は、ほかにない。ピッチの外の話がどうなろうと、あの5分間にピッチの上で起きたことは、本物だった。私はそう思っている。
今夜の一杯は、93分20秒まで待ってから飲むことにしよう。――FOOTY BAR
参考にした記事
- スカイ・スポーツ マンチェスター・シティ 3-2 QPR 試合レポート
- Planet Football シティ対QPRの驚きの数字
- FotMob プレミア史上最もドラマチックな瞬間の解剖
- マンチェスター・シティ公式 5月13日の歴史
- Wikipedia(英語)マンチェスター・シティの財務規則違反問題
※試合の内容は当時の報道と記録をもとにしています。シティの財務規則違反問題は2026年10月26日時点の状況です。
アイキャッチ写真:Cléria De Souza(CC BY 2.0)、Christian David(CC BY-SA 4.0)、いずれもWikimedia Commons。改変して使用


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